園芸を楽しむ中で、「挿し木してもいいのかな?」「名前を使って販売したらどうなるの?」といった疑問を持ったことはありませんか?
実は、多くのバラ品種は知的財産として法的に保護されており、知らずに育てたり売ったりすると違法になる可能性があります。
このページでは、「育成者権(種苗法)」と「商標権」という2つの法律を軸に、バラの挿し木と販売に関わる注意点を、具体例と共に解説していきます。
この記事で分かること
-
- 育成者権(種苗法)と商標権の違い
- 違反した場合の罰則やリスク
- 自分で品種の権利状況を調べる方法
育成者権と挿し木
バラの品種は、実は「知的財産」として保護されているものがあります。このセクションでは、育成者権の概要と違反のリスク、確認方法を紹介します。
育成者権とは何か
育成者権は、新しい植物の品種を開発した人がもつ「独占的な増殖・販売の権利」です。日本では「種苗法」によって保護されています。
登録された品種は、原則として育成者の許可なしに増やすこと(=挿し木など)はできません。これは個人が家庭用に育てる目的でも、場合によっては違反になることがあります。
育成者権の違反と罰則
無断で登録品種を増殖・販売した場合、以下のような罰則があります。
- 【刑事罰】10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人は3億円以下)
- 【民事罰】損害賠償請求や差止請求の対象
実際に、フリマサイトでのイチゴ苗の無断販売で摘発された事例もあります。
育成者権を調べる方法
以下のサイトで品種名を検索できます。
- 農林水産省「品種登録データ検索」:https://www.hinsyu.maff.go.jp/
商品名ではなく「登録品種名」で検索する必要がある点に注意してください。
商標権とバラの名前
バラの名前にも「商標」という権利が関係しています。このセクションでは、名前の使用に関する注意点を詳しく解説します。
商標権とは何か
商標権は、ブランド名や商品名などに対する権利で、「名前を使う権利」を守る制度です。たとえバラの品種の育成者権が切れていても、名前(商標)が登録されていれば、勝手に使うことはできません。
商標権の違反と罰則
- 【刑事罰】10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人は3億円以下)
- 【民事罰】損害賠償や差止請求の可能性あり
商標は「使った時点で違法」とされるため、より即時的なリスクを持ちます。
商標権を調べる方法
- J-PlatPat(特許情報プラットフォーム):https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
バラの品種名で検索するか、「出願人(メーカー・育種家)」で検索します。
育成者権と商標権の関係
育成者権と商標権はそれぞれ別の権利ですが、組み合わせによって注意点が変わります。ここでは両者の関係性を整理して理解しましょう。
「売ってもいいけど名前はダメ」問題
育成者権が切れている品種でも、商標が生きていれば「販売は可能でも名前を使ってはダメ」な状況が生まれます。これはガーデナーにとって非常にややこしい部分です。
育成者権が切れても名前は守られる?
商標権は更新し続けることで長期保護が可能なため、育成者権(25〜30年)よりも長く残るケースが多く見られます。
(具体例)ピエール・ドゥ・ロンサールの場合
ピエール・ドゥ・ロンサール(Pierre de Ronsard)は、フランス・メイアン社が作出した世界的に有名なつるバラで、日本でも人気の高い品種です。
日本での育成者権はすでに期限切れとなっており、挿し木による増殖・販売は法律上問題ありません。
しかし、商標権は「Pierre de Ronsard」の名称で現在も継続登録中(ステータス:存続・登録・継続)のため、この名前を用いて販売や宣伝を行うことは商標法に違反するおそれがあります。
たとえば:
– ✅「白地にピンクの花、人気つるバラ」など特徴で表現 → OK
– ❌「ピエール・ドゥ・ロンサールの挿し木苗」 → NG
このように、育成者権と商標権のタイミングがずれると「売ってもいいけど名前はダメ」という複雑なケースが生まれる好例です。
(具体例)アイスバーグの場合
「アイスバーグ(Iceberg)」は、1958年にドイツのコルデス社によって作出された歴史あるフロリバンダローズで、登録名は「KORbin」とされています。
この品種は世界中で非常に人気があり、日本でも長く親しまれてきました。登録からすでに60年以上が経過しており、以下の理由から 育成者権も商標権も切れていると考えられます。
-
育成者権:日本では育成者権の保護期間は最長30年であるため、1958年作出のアイスバーグはすでに権利が切れている。
-
商標権:国内外で「アイスバーグ」の名称で商標登録されている形跡は見られず、特許庁の商標検索でも有効な登録は確認されていません。
つまり、「アイスバーグ」という名称を用いて挿し木苗を販売しても、現在のところ法的な問題はないと判断できます。
ただし、注意点として:
-
同じ名前でも将来的に別の商標出願がある可能性がゼロではないため、事前に確認するのが安心です。
-
アイスバーグのように「一般名化」したバラでも、商標として保護されていないことが確認できるまでは念のため調査を推奨します。
✅ バラ品種と知的財産権の具体例
品種名 | 育成者権 | 商標権 | 挿し木販売 | 名前の使用 |
---|---|---|---|---|
ピエール・ドゥ・ロンサール | ❌ 切れている | ✅ 登録継続中 | ⭕ 可 | ❌ 使用不可 |
アイスバーグ | ❌ 切れている | ❌ 商標登録なし | ⭕ 可 | ⭕ 使用可 |
ボレロ | ✅ 登録継続中 | ❌ 商標登録なし | ❌ 不可 | ⭕ 使用可 |
ナエマ | ❌ 日本での育成者権登録なし | ✅ 登録継続中 | ⭕ 可 | ❌ 使用不可 |
※ 状態は記事作成時点の情報をもとにした推定です。販売前には必ず公式データベースでご確認ください。
権利の維持にかかるコスト
植物の知的財産を守るには、維持費用が発生します。ここでは、育成者権と商標権それぞれの維持にかかる費用や戦略的な背景について説明します。
育成者権の維持費用
- 登録時の費用:約30,000円〜
- 年次更新費用:年々増加(例:1年目1,000円 → 10年目数千円)
商標権の更新コスト
- 出願費用:約12,000円
- 登録費用:約28,000円(10年間有効)
- 10年ごとの更新が必要
なぜ商標だけ維持するのか?
- ブランド価値を保ちたい
- 流通を管理しやすくする
- 消費者の信頼性を維持する
育成者権は期限付きですが、商標は「更新を続ける限り」永続できるため、戦略的に商標のみを維持するケースが多く見られます。
家庭で挿し木を楽しむのはOK?
「挿し木=違法」ではありません。あくまで目的や範囲によって異なります。このセクションでは、一般家庭での楽しみ方と注意点を整理します。
個人の庭での楽しみ方
非営利・私的利用であれば、原則として問題ありません。家庭で自分のバラを楽しむ分には、法律の対象外とされています。
友人への譲渡は大丈夫?
無償であっても「営利性がある」と判断されるとNGになることがあります。数量や頻度、状況によっては注意が必要です。
フリマ出品のリスクと注意点
メルカリなどのフリマアプリでは、挿し木苗の出品が数多く見られますが、以下のような法的リスクを伴う可能性があります。
- 育成者権が有効な品種を販売 → 違法増殖で種苗法違反
- 商標が登録されている名前を使用 → 商標法違反
- 無断でタグや説明に「○○ローズ」などのブランド名を使う → ブランド誤認の可能性
- 「名前を伏せて出品」しても、品種が特定できれば違法とみなされる可能性あり
特に「最近の新品種」「流通が限られているブランド品種」は権利が残っている確率が高く、販売には十分な注意が必要です。
また、営利性の有無に関係なく、繰り返し販売していれば商業的行為と見なされるリスクがあります。誤解しやすいポイントですが、「趣味で売っているだけ」でも法律的にはアウトになる場合があるという点を覚えておきましょう。
メルカリで違法出品が残る理由
違法な出品が目立つメルカリなどのフリマサイト。なぜ削除されないのか?その背景や限界について触れていきます。
運営側が違法判断しにくい
品種名や権利の有無をメルカリ運営が即時に判断するのは難しく、曖昧な出品が残ってしまう要因になっています。
名前を意図的に伏せている
「つるバラ・人気品種」など、あえて名前を出さずに売っているケースも多数。知っている人には分かるけれども判断がつきにくいため、削除対象にならないことも。
訴えることができるのは誰か
基本的に「育成者」や「商標権者」など、正規の権利者しか法的手段をとれません。メルカリに通報しても、一般人が違反を止める法的権限はありません。
特に多い:ロサオリエンティス系
近年人気のブランドで、最新品種も多いため、無断出品が後を絶ちません。名前を伏せていても、特徴で判別できてしまうことも多くあり、売る側も買う側も理解しています。
なぜ挿し木苗が多く出回るのか
ルールがあるにもかかわらず、なぜ違法な挿し木苗が流通してしまうのか。その理由や背景を掘り下げてみましょう。
安さが魅力
正規苗に比べて価格が安く、手軽に購入・出品できるため出回りやすい傾向に。買う人がいるから売る人がいるのです。
法律や育て方を知らないまま出品
趣味の延長で、ルールを知らずに挿し木を販売してしまっているケースも多数あります。
趣味+副収入の側面
ちょっとしたお小遣い稼ぎの意識で、悪意なく始めてしまうことも。
苗から育てる喜びを求める人も
「小さい苗を大きく育てたい」というガーデナー心理から、あえて挿し木苗を選ぶ層も存在します。
挿し木苗のリスクと正規苗の価値
安く手に入る挿し木苗にもリスクが伴います。ここでは、正規苗を選ぶことの意義についても考えてみましょう。
挿し木苗のリスク
- 品種違いの可能性
- 病害虫の持ち込み
- 違法性のリスク
正規苗のメリット
- 信頼できる育種元からの供給
- 育てやすさと品質の保証
- 育種家やブランドの支援になる
「少し高くても正規苗を買う」という選択が、巡り巡って美しいバラ文化を守ることにつながります。
🌿 まとめ:挿し木と法律、正しく知ればこわくない
バラの挿し木は、園芸の中でもとても魅力的な楽しみのひとつです。
しかし、品種によっては育成者権や商標権といった知的財産権が関わることもあります。
今回ご紹介した内容をおさらいすると──
-
育成者権(種苗法):新品種の増殖(挿し木など)は制限され、違反すれば罰則があります
-
商標権:バラの「名前」も権利の対象になる場合があり、販売時の名称使用に注意が必要です
-
合法かどうかを調べる方法がある:品種登録データベースや商標検索を活用しましょう
-
育成者権が切れていても、名前の使用はNGなケースもある(例:ピエール・ドゥ・ロンサール)
🌸 大切なのは「知らなかった」で済ませず、調べる・確認する姿勢です。
正しい知識をもって育てることは、育種家さんへの敬意でもあります。
そして、あなたのバラライフをもっと安心で、もっと深く豊かなものにしてくれるはずです。